カフェにて

私は時間が空けば、仕事の合間にカフェによく行く。
時間を潰す為ではなく、時間を有意義に使いたいから。
ゆっくり考え事したい時。頭の中を整理したい時。
ひとりでも、ふらっとお茶をしに行く。

先日、芦屋で少しお客様待ちの時間が出来たので、
ドライブがてら山の上のカフェに行った。
ここは、私が独身の頃からよく行く、隠れ家的な場所。
昼も夜も、とても景色が良い。
気候が良くなるとテラスに出て、外でお茶をする。

その日は平日の昼間、中途半端な時間のひとりランチ。
広い店内はガラガラで、ふた組の先客だけだった。

『 いらっしゃいませ。お一人様ですか？』

こちらにどうぞ〜と、私は奥の二人席に通された。

「 あっちのテーブルでも良いですか？」と私が聞くと

『 この時間あちらのテーブルは、三名様以上でお願い
しています。 』との事。

窓際の景色の良いテーブルは、沢山空いていた。

にこりともしない、流れ作業のような接客に
昔と随分変わっちゃったよなぁって、思いながら。
１時間程で出るつもりだったし、ひとりだったし。
……ふぅん、あらそう。まぁいっかと。
これから混む時間帯とは到底思えないのだけどね。
いやいや……今日はいらん事言うのやめよ（笑）
そして、その若い店員さんに通された席に座る。

そして私が席に着いたすぐ後に、とても上品なご高齢の
マダムと、まだ若い女性の二人連れが来店した。
パッと見てすぐに、お婆さまとお孫さんの関係だと分かった。
そしてそのマダムも、席に案内されながら、私と同じ
会話をしているのが聞こえた。

『 どうして窓際はダメなの？』

「 ランチの時間帯はこちらの席でお願いしています 」

そのお二人も、私と同じ、奥のテーブルに通された。

その後、お客様は誰一人来られなかった。
せっかくの晴れた昼下がり、何となくスッキリとしない
気分でランチを食べる。
そんな接客をしていては、お客様は離れるだろうなぁと
質が落ちたなぁと思いながら、店内を見ていた。

『 さ。もう帰りましょう。』

「 いいよ、おばぁちゃん。私はここでいい。」

『 いいえ。気分が悪いから出ましょう。』

先ほどのお二人、どうやらランチだけして、お茶は
されずに席を立たれたようだった。

そして、帰り際にそのマダムが静かに言われた言葉。

『 こんなにテーブルが空いてるのに、どうして隅の
席に案内するの？ お店の決まりがあるのかもしれない
けど、あなたはおかしいとは思わないの？ こんなに空
いてるのに。私は混雑してる時間帯をわざわざ避けて
来たのよ。せっかく景色を見に来たのに。こんなんだ
ったら、もう来れないわね。』

その通りだと思った。言われて当然だと思った。
きっとこのマダムも、昔からの常連さんだろう。
店員は言われている言葉に、きょとんとしていた。
きっとマニュアル通りの接客をしただけ。
そして無言で、あからさまに嫌な顔をしていた。

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昔は『 大人の隠れ家 』のようで、特別な場所だった。
あの頃は店員さんも美男美女ばかりで、ここでアルバイ
ト出来る事もステータスのような雰囲気があった。

一時期のカフェブームで、この辺りもたくさん同じよう
なお店が出来、その頃から何だかおかしくなった。
増築増築で店内は広くはなり集客も増えただろうが、
それに伴い、接客のレベルはかなり低下した。

SNSの普及で、ドッと人が押し寄せ、いつ行っても、
ゆっくり出来ないお店になっていった。
なぜか『 二時間制 』になったりね。

お店の拡大と共に、大切な事が希薄になって行く。
それはスタッフに問題があるのではなく、オーナー自身
が『お客様指向 』ではなく『 売上重視 』になっている所以。

接客をマニュアル化して、臨機応変に対応できる人材が
本当に減ってしまった。
自分の頭で状況判断の出来る優れたスタッフが、どこの
店にも昔は必ずいたものだけどね。

私がカフェに行く理由は、もしかしたら珈琲の味よりも
そこの接客や環境の方が優先順位は上かもしれない。
ゆっくりとお茶を楽しめて、ひとりでも落ち着ける事。
気持ちの良いスタッフ、そして環境・空間が素敵であること。

ここのオーナーは、先日マダムが言ってくれた言葉を、
うるさい客として流してしまうのか、真摯に受け止めて
スタッフ教育を一からしていくのか。
とても大事な岐路に立たされてる気がしてならない。

もう少し暖かくなったら、行ってみようと思う。
また昔の様な、居心地の良いカフェになってますよう…

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